株式会社を設立する際、多くの起業家が最初に悩むのが「資本金をいくらにすべきか」という問題です。
資本金は会社の信用力を示す重要な指標であると同時に、事業運営の初期資金としても機能します。平成18年の会社法施行により、最低資本金制度が撤廃されて以降、1円から株式会社を設立できるようになりましたが、実際には慎重な検討が必要です。
本記事では、行政書士の視点から、株式会社設立における資本金の適正額の考え方、法的な最低額、払込み手続きのタイミング、そして絶対に避けるべき見せ金や預け合いなどの違法行為について、網羅的に解説いたします。
執筆・監修:行政書士 𠮷岡 秀充
- 株式会社設立における資本金とは
- 資本金の定義と役割
- 資本金が会社に与える影響
- 資本金の最低額と法的規制
- 会社法における最低資本金
- 1円起業の現実性
- 適正な資本金額の決め方
- 事業内容による目安
- 運転資金の観点から
- 許認可との関係
- 税制上の考慮点
- 資本金の払込み手続きとタイミング
- 払込みを行う時期
- 払込みの具体的手順
- 払込証明書の作成
- 見せ金・預け合い(仮装払込み)の危険性
- 見せ金とは何か
- 預け合い(循環出資)の問題
- 法的リスクと罰則
- 発覚した場合の影響
- 資本金に関するよくある質問
- まとめ
- 当事務所へのご相談
株式会社設立における資本金とは

資本金の定義と役割
資本金とは、会社を設立・運営するために株主や創業者が出資したお金の総額で、会社の事業のスタート資金・運転資金となります。
会社法445条2項では、払込みを受けた財産の額の2分の1を超えない額を資本金として計上しないことができるとされていますが、設立時は通常、払込み全額を資本金とすることが一般的です。
資本金は以下のような役割を果たします。
- 会社の財政的基盤を示す指標
- 債権者保護のための最低限の財産
- 事業運営の初期資金
- 対外的な信用力の証明
資本金が会社に与える影響
資本金の額は、会社運営において様々な面で影響を及ぼします。
登記簿謄本に記載される資本金の額は、取引先や金融機関が会社の信用力を判断する重要な材料となります。特に、新規取引の際には資本金額を確認されることがあり、あまりにも少額だと取引を躊躇される可能性があります。
また、資本金の額によって税制面での取り扱いも変わってきます。資本金1,000万円未満の会社は、設立初年度から原則として2期間、消費税の免税事業者となることができます。
この二期間を経過し、課税事業者となった場合は、税理士さんへの相談をお勧めします。
資本金の最低額と法的規制

会社法における最低資本金
平成18年(2006年)の会社法施行により、それまで存在していた株式会社の最低資本金制度(1,000万円)は撤廃されました。現在の会社法では、資本金の最低額に関する規定は設けられておらず、理論上は1円からでも株式会社を設立することが可能です。
この改正の背景には、起業を促進し、新規事業の創出を容易にするという政策目的がありました。実際に資本金のハードルが下がったことで、多くの起業家が株式会社設立に踏み出しやすくなりました。
1円起業の現実性
法律上は1円での設立が可能ですが、実際のところ、現実的ではありません。
まず、会社設立には登録免許税(最低15万円)や定款認証費用(約5万円)などの初期費用が必要となります。さらに、設立後すぐに事業を開始するための運転資金、事務所の賃料、備品購入費など、実際の事業運営には相応の資金が必要です。
また、資本金が極端に少ない会社は、取引先や金融機関からの信用を得にくく、ビジネスチャンスを逃す可能性があります。資本金1円の会社に対して、融資を行う金融機関はほぼ存在しないと考えてよいかもしれません。
適正な資本金額の決め方

事業内容による目安
資本金の適正額は、事業内容や事業規模によって大きく異なります。一般的な目安として、以下のような基準が参考になります。
- 小規模なサービス業・コンサルティング業:100万円~300万円
- 小売業・飲食業:300万円~500万円
- 製造業・卸売業:500万円~1,000万円
- IT・システム開発業:300万円~1,000万円
- 建設業・不動産業:500万円~1,000万円以上
- 調剤薬局運営:500万円~1,500万円以上
- 自動車整備工場運営:500万円~1,000万円以上
- 一般貨物運送事業運営:1000万円~2,000万円以上
ただし、これらはあくまで目安であり、具体的な事業計画に基づいて慎重に検討する必要があります。
運転資金の観点から
資本金を決定する際の最も重要な視点は、「事業が軌道に乗るまでの運転資金を確保できるか」という点です。
一般的には、最低でも3か月分、できれば6か月分以上の運転資金を資本金として準備することが推奨されます。
運転資金には以下のような項目が含まれます。
- 人件費(役員報酬・従業員給与)
- 事務所や店舗等の賃料・光熱費
- 通信費・消耗品費
- 広告宣伝費
- 在庫仕入れ費用(商品を扱う場合)
- その他の固定費・変動費
これらを月次で計算し、事業が黒字化するまでの期間を見積もって、必要な資本金額を算出することが重要です。
許認可との関係
事業の種類によっては、許認可を取得するために一定額以上の資本金が必要になる場合があります。代表的な例をご紹介します。
- 一般建設業許可:資本金500万円以上または預金残高500万円以上
- 特定建設業許可:資本金2,000万円以上
- 労働者派遣業:基準資産額2,000万円以上(資本金として計上する必要はないが実質的に必要)
- 有料職業紹介事業:基準資産額500万円以上
これらの許認可が必要な事業を行う場合は、資本金額の設定に特に注意が必要です。設立後に増資することも可能ですが、当初から必要額を確保しておく方がスムーズです。
税制上の考慮点
資本金額は税制面でも重要な意味を持ちます。特に重要なポイントは以下の通りです。
消費税の免税事業者の判定:資本金が1,000万円未満の場合、原則として設立1期目と2期目は消費税の免税事業者となります。
詳細は以下のウェブサイトで確認できます。
資本金の払込み手続きとタイミング

払込みを行う時期
株式会社設立における資本金の払込みは、定款認証後に行います。具体的な設立手続きの流れは以下の通りです。
- 定款の作成
- 公証役場での定款認証<この後>
- 発起人の個人口座への資本金払込み
- 払込証明書の作成
- 設立登記申請
重要なポイントは、定款認証前に払込みを行うことはできないという点です。定款認証の日付以降に払込みを行う必要があります。また、払込み後は速やかに登記申請を行うことが望ましいでしょう。
合同会社の場合は定款認証がありませんので、定款作成後となります。
払込みの具体的手順
資本金の払込みは、以下の手順で行います。
- 発起人代表者の個人口座を準備:会社設立前は法人口座が存在しないため、代表発起人(通常は代表取締役となる予定の方)の個人名義の銀行口座を使用します。新規に口座を開設する必要はなく、既存の口座を使用できます。
- 各発起人が出資金を振込み:発起人が1名の場合は、自身の口座に入金(または既存の残高で対応)します。発起人が複数いる場合は、各発起人が代表者の口座に振込みを行います。もともと入金されている預金を使用する場合は、一度引き出してから再度預け入れを行います。入出金の場合は手間が大きくなりますのでお勧めしません。通帳に振込人の名前が記録されるよう、振込みの形式で行ったほうが証拠として残り、発起人が複数の場合、通帳に発起人の名前を残すこともできますので、基本は振込みの形式で行いましょう。
- 通帳のコピーを取得:払込み後、通帳の以下のページをコピーします。
- 表紙(金融機関名・支店名・口座番号・名義人が確認できるページ)
- 表紙の裏面(住所などが記載されている場合)
- 払込みが記帳されているページ(入金日・金額が確認できるページ)
ネットバンキングを利用している場合は、上記の情報が確認できる入出金明細画面を印刷して使用することも可能です。
払込証明書の作成
払込み後は、「払込証明書」を作成します。これは、定められた金額が確実に払い込まれたことを証明する書類で、ご自身で行う又は司法書士に手続を依頼して設立登記申請の際に必要となります。
払込証明書には以下の事項を記載します。
- 書面の表題、定款記載の正式名称、本店所在地
- 払い込まれた総額
- 設立時発行株式数、1株あたりの払込額(募集設立等)、払い込み実行が実行された日付
- 設立時取締役(又は代表取締役になる者)の氏名と押印、証明書の作成日
払込証明書の末尾には、先ほど取得した通帳のコピーを添付し、各ページにわたって会社代表印で契印(代表者印として登録予定の印鑑)を押します。これにより、払込みの事実を客観的に証明することができます。
見せ金・預け合い(仮装払込み)の危険性

見せ金・預け合い
「見せ金」とは、資本金の払込みを仮装する行為を指します。具体的には、一時的に借り入れた金銭を資本金として払い込み、登記完了後すぐに引き出して返済するという手口です。
例えば、以下のようなケースが見せ金に該当します。
- 知人から500万円を借りて資本金として払込み、登記後すぐに引き出して知人へ返済
- 金融機関から融資を受けて資本金として払込み、設立直後に全額返済
- 資本金として払い込む約束で知人から預かった金銭を、設立後すぐに返還
これらの行為は、実質的な資本の裏付けがないにもかかわらず、形式上の資本金があるように見せかける行為であり、違法行為です。
法的リスクと罰則
見せ金や預け合いなどの仮装払込みは、会社法違反(会社法965条・預け合いの罪)として刑事罰の対象となる可能性があり、内容によっては(963条・会社の財産を危うくする罪)に当たる可能性もあり、会社法記載の罰則の通り、これらは非常に重い罰則です。
発覚した場合の影響
設立後、仮装払込みが発覚した場合、以下のような深刻な影響が生じます。
- 会社の信用失墜:取引先や金融機関からの信用を完全に失い、事業継続が困難になります。既存の取引が打ち切られる可能性も高いでしょう。
- 融資の回収:金融機関から融資を受けていた場合、期限の利益を喪失し、即時一括返済を求められる可能性があります。
- 民事上の責任:会社債権者から損害賠償請求を受ける可能性があります。また、株主代表訴訟により、取締役個人が会社に対して損害賠償責任を負う可能性もあります。
- 許認可の取消し:許認可事業を行っている場合、許認可が取り消される可能性があります。
- 上場審査への影響:将来的に株式上場を目指している場合、過去の仮装払込みが発覚すれば、上場審査を通過することは極めて困難になります。
このように、見せ金・預け合いは一時的に資本金の問題を回避できたように見えても、長期的には会社経営にとって存続すら危うくなる致命的なダメージを与える行為です。絶対に行ってはなりません。
資本金が不足しているならば、正当な方法で資金を調達すべきです。
具体的には、発起人を増やして出資を募る、創業融資制度を利用する、少額の資本金で設立して後日増資するなどの方法があります。
そもそもですが、まずは働くなどして自己資金を増やしておくことが大切です。
資本金に関するよくある質問
- 資本金は後から変更できますか?
- はい、資本金は設立後に変更することが可能です。
増資(資本金を増やすこと)は比較的容易に行えますが、減資(資本金を減らすこと)は債権者保護手続きが必要となるため、より複雑な手続きとなります。ただし、いずれの場合も登記申請と登録免許税が必要となりますので、ご自身で行うか、司法書士への手続依頼が必要です。 - 資本金の払込みは現金以外でもできますか?
- はい、現物出資という方法で、不動産、車両、パソコン、在庫商品などの財産を出資することも可能です。ただし、現物出資には原則として検査役の調査が必要となり、手続きが複雑になります。総額が500万円以下の場合などは検査役の調査が不要となる例外もありますが、実務上は現金での出資が望ましいです。
- 資本金は全額自己資金でなければなりませんか?
- いいえ、資本金は必ずしも自己資金である必要はありません。
親族や知人からの出資、日本政策金融公庫の創業融資などを活用することも可能です。ただし、前述の通り、一時的な借入れを資本金として払い込み、すぐに返済する「見せ金」は違法行為ですので注意が必要です。
適切な資本政策を立てた上で、正当な方法で資金調達を行ってください。 - 資本金を決める際に行政書士に相談すべきですか?
- はい、専門家への相談を強くお勧めします。
行政書士は設立手続き全般と許認可の観点からアドバイスを提供できます。
資本金の額は会社の将来に大きく影響する重要な決定事項ですので、事業計画を含めて総合的に検討することが重要です。 - 適正額はどのように決めればいいですか?
- 細かい計算が必要です。
ご自身で調べて計算することが困難な場合は財務コンサルティングが得意な専門家への相談を強くお勧めします。税理士・公認会計士有資格者がコンサルティングが得意とは限りませんがこれらの有資格者は、具体的な税務の相談も可能となります。
まとめ

株式会社設立における資本金は、法律上は1円から設定可能ですが、実務上は事業内容、運転資金、許認可要件、税制などを総合的に考慮して決定する必要があります。
一般的には最低でも100万円~200万円以上、できれば事業が軌道に乗るまでの3~6か月分以上の運転資金を確保することが望ましいでしょう。
資本金の払込みは定款認証後に発起人の個人口座に対して行い、払込証明書を作成して登記申請(自分or司法書士にて手続依頼)時に添付します。
この際、見せ金や預け合いなどの仮装払込みは重大な犯罪行為であり、会社の信用を失墜させるだけでなく、刑事罰の対象となりますので、絶対に行ってはいけません。
もし懸念点があれば弁護士へ、登記に関しては司法書士へのご相談お勧めいたします。
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